以前テレビで見た、アニマル浜口道場の所構わず貼紙がビッシリ〜の光景に驚いたことがある。すべての貼紙には、墨が飛び散りそうな勢いの毛筆でしたためた檄文が書いてあった。「気合いだ!」「目指せ金メダル!」とかそういうたぐいである。その光景は電波系に近いものがあり、見ているだけでめまいがしそうな感覚に陥ったが、それからそんなに間を置かずして自分でも同じことをするとは、さすがにそのときは思わなんだ。
親父が何を言ってもなかなか話が通じないので、実家はいつの間にか壁といわず窓といわず貼紙だらけである。「寝タバコ厳禁!キケン!」「酒と薬の併用は絶対禁止!」「リハビリパンツは毎日取り替える!」「ヘルパーさんの訪問時間は必ず家にいるように!」などの注意書きから、ヘルパーさんの訪問時間表、冷蔵庫には中に入っている総菜やパン類を明記したものなど、思いつくとカレンダーの裏などの大きい白紙に太いマジックで書いて貼るようにしているのだが、そんなものどこ吹く風で無視されるのがオチ。「寝タバコ厳禁!」の文字を目の前にして、親父はベッドの上で寝っ転がりながら1日60本近く煙草を吸う。そんな淀みきった空気の中にあっては、言霊の力は無効なのであろうか。